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Emotional Daybreak -SINGLE BEST-[遠藤ゆりか]のレビューと歌詞、試聴動画

2018年06月18日 01:03 更新                  
カテゴリ: [遠藤ゆりか]

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Emotional Daybreak -SINGLES BEST-とは

2018年(平成30年)5月9日に発売された遠藤ゆりかベストアルバム。

遠藤ゆりかの声優アーティスト人生、そしてラスト・メッセージ・・・
そのストーリーに埋め込まれた「空白」に何を見るのか。

YURIKA ENDO『Emotional Daybreak』SINGLES BEST

目次

1. knight-night. (Album ver.)
2. パラレルスパイラルライン
3. REBORN
4. Grimm Truth
5. 黄泉のYou&Me
6. モノクロームオーバードライブ
7. ふたりのクロノスタシス
8. 黄昏ジュヴナイル
9. Melody and Flower
10. はじまりのうた
11. Emotional Daybreak
まとめ

データ

歌手: 遠藤ゆりか
サウンドプロデューサー: ゆよゆっぺ
ディレクター: 堀切伸二 (ポニーキャニオン)
A&Rプロモーター: 小西隆之 (ポニーキャニオン)
セールスプロモーター: 稲井昌宏 (ポニーキャニオン)
マスタリング・エンジニア:多田雄太 (クレジットにはMaterring Engineerと表記。誤記?)
アーティスト・マネジメント: Takeshi Yoshida, Sayaka Chiba (スワロウ)
ゼネラル・マネージャー: Takahiro sasaki, 中村伸一 (ポニーキャニオン)
エグゼクティブ・プロデューサー: 古川陽子 (ポニーキャニオン), 関根優一 (スワロウ)
レーベル: ポニーキャニオン
発売日: 2018/05/09

アルバム試聴動画

歌詞リンク

遠藤ゆりかの歌詞一覧リスト - 歌ネット

レビュー

 読む前に、こちらに目を通しておくと、なお良いかと思います。
遠藤ゆりか、ベスト・アルバムへの思いを綴ったラストインタビューが到着! - リスアニ!WEB

 この記事は、ファンとしての・・・ゆりか組としての目線は極力排除したつもりです。フルネーム敬称略なのはプロフェッショナルに対しての僕なりの敬意です。LoveではなくFavoriteで書きました。楽曲の評価に限らず・・・結論など出ないことを承知の上で敢えて脱線もしました。「そこは触れるな!」と言う人もいるかもしれません。しかし、遠藤ゆりかのアーティスト活動そのものであるこのアルバムを語る上で、どうしても無視することはできないことです。ご理解ください。

1. knight-night. (Album ver.)

作詞:遠藤ゆりか
作曲:MIKOTO
編曲:久下真音

 本人自らが作詞した癒やしの歌。ジャジー。この曲をアルバムの1曲目に持ってくるのは、なかなか大胆。夜明けがテーマであるが故に、おやすみ的な雰囲気の曲を先頭に持ってくる。この曲は2017年4月に発売された3rdシングル「Melody and Flower」のc/w曲。

 とりわけ2番の歌詞からは、この時期はしんどかったんだろうなぁ・・・自分自身を癒やしたかった気持ちを創作に昇華したのかもしれない・・・などと想像もしてしまいますが、イントロのオルゴールと、全体の雰囲気の軸となるブラスとシンセ音の活躍もあってか、楽曲として決してしみったれてはいなくて、明るく癒やし、慰めてくれる。歌詞もそう。感情の垂れ流しではなく、しっかりと作品に仕上げているところに彼女のマジメな性格が感じられますよね。少なくとも僕は、仮に仕事でしんどい思いをしたなら、帰路につく間にこの曲を聴きたいな、と思います。

2. パラレルスパイラルライン

作詞:藤本功一
作曲:藤本功一
編曲:藤本功一

 2014年の2ndシングル「ふたりのクロノスタシス」のc/w曲。遠藤ゆりかを知ったのが2016年の自分としては、「こういうのを歌ってたんだなぁ」と一番意外に感じた楽曲。アルバムの楽曲が11人の姉妹だったとしたら、一番年少・・・末っ子がこの曲じゃないかな?極めてキャラソン的。

 ソロデビュー1年目・・・この曲に限らず、この頃の遠藤ゆりかはまだプロデュースの影響が強く感じられ、まだ「らしさ」はあまり感じられません。ただ、彼女の音楽活動の歴史、パーソナリティの変化を語る上で、この時代があったことを無視してはいけないし、この時代が無ければ、引退間際に爆裂的に輝いた彼女の「らしさ」はもう少し大人しいものになっていたのかもしれません。まぁ、変わったのではなく、芸幅が拡がったというのが正解だとは思いますよ。

3. REBORN

作詞:Sonomi Tameoka
作曲:Glow
編曲:Yukihiro Fukutomi

 高い高い!キーが高い!デビューシングルのc/w曲にこんな曲を持ってきて、ポテンシャルをアピールしたかったのでしょうか。楽曲の雰囲気は80年代風デジタルサウンドで、個人的には好物。アルバムの構成の中では、「そろそろエンジン入れますよ」という意思をバリバリに感じますよね。この曲のイントロはそういうスイッチになれる。眠りについて、ぼんやりしたパラレルスパイラルラインの先には、エキサイティングな夢の幕開け。「夜はこれからだぜ、ヒャッハー!」

 この曲と「モノクロームオーバードライブ」でデビューしたということは、ポニーキャニオンとして遠藤ゆりかをこういう路線で育てよう・・・という当初の意思表示だったかと思います。たらればの話に価値などありませんが、もし体調が万全だったなら、2ndシングルで可愛く歌えることもアピールした上で、その後はまたこういう曲に戻って、確固たる「路線」を作っていたのではないでしょうか。

4. Grimm Truth

作詞:コツキミヤ
作曲:秋月須清
編曲:秋月須清

 女性向けドラマCD『グリム街の王子様』の主題歌で、シングル化されなかった楽曲。しかし、実はYouTubeで2016月11月1日にMusicVideoが配信開始されていて、聴き放題状態ではあったのです。これを見てしまうと「勿体無い!」と思わざるを得ません。何故これが女性向けなのか・・・と。だって、色っぽいんだもん!

 このMVはアルバムのBDには収録されませんでしたが、遠藤ゆりかにとっての最後のMV。時系列では、2ndシングル発売から1年3ヶ月・・・MVで歌う彼女は2ndシングルよりも垢抜けた雰囲気で、グリム童話コンセプトの楽曲をアダルティに歌う姿は素敵と言う他ない。2ndシングルの清純派の雰囲気から脱し、2017年以降、徐々に派手な容姿になっていくまでの中間地点といったところでしょうか。この曲もまた彼女のパーソナリティの変化を語る上では外せない楽曲でしょう。

5. 黄泉のYou&Me

作詞:zakbee
作曲:nagomu tamaki / 岩田アッチュ
編曲:nagomu tamaki

 シングル化されなかった楽曲その2。こちらも女性向けドラマCD『黄泉戀湯浴み 地獄温泉~源泉かけ流し~』の主題歌で、MusicVideoが2016年3月9日に配信開始。まぁ見た感じ、単なるニコファーレ?でのライブ映像ですけど。和風ロック。黒髪パッツン・・・これはかなりレアだなぁ(爆)「それがどうじゃ?」がかわいい。この曲も極めてキャラソンに近いですが、一方で、遠藤ゆりからしさも存分に発揮されています。巧くなっているし、こう歌えばいいんだ・・・というのを掴んだようにも思えます。

 この曲と「Grimm Truth」は、ドラマCDの発売元がポニーキャニオンではなく、本来は、キャラ名義のキャラソンのようにベストアルバムに収録されるような扱いではなかったかと思いますが、よくぞ収録してくれたと思います。・・・と同時に、やはり考えてしまうのは、何故女性向けなのか、ということ。彼女自身が愛好家であるとは言え、それだけで仕事が決まるものでもないでしょう。送り手の側に回ることにどうしても違和感。オトナをターゲットとした作品で同性が主題歌を歌う・・・珍しいよなぁ、多分。

 ポニーキャニオンのオーディションでグランプリを取り、傘下の声優事務所に所属し、ポニキャンのイベントMCに起用されるなど、レーベルの「顔」として育つことを期待されていたであろう彼女が、2014年に2ndシングルを出して以降、声優としてはゲームに軸足を移し、2016年にポニーキャニオン以外でドラマCDの主題歌を2曲も歌っていた事実。遠藤ゆりかの声優アーティストとしての5年間の中に大きなターニング・ポイントがあったとするならば、間違いなく2015年前半に、表立った活動ができなくなってしまった理由が存在し、それこそが彼女の引退発表文に記されていた体調不良だった・・・ということでしょうか。生放送はよくやっていましたし、色々なことを勘繰ってはしまいますが、干されていたのなら2017年以降の神がかり的な復活、そして復活後になって引退を発表したことの説明がつかない。ただ間違いなく言えるのは、以前から明らかに成長の跡が見えるということ。研鑽を続けていたんだということです。

6. モノクロームオーバードライブ

作詞:HISASHI
作曲:HISASHI
編曲:HISASHI / DJ MASS[VIVID Neon*] & Shoko Mochiyama

 2014年2月5日に発売されたデビューシングルで、アニメ『Z/X IGNITION』のED。プロデュースはGLAYのHISASHI。期待されていたんだなぁ・・・というのがよく解ります。曲の雰囲気に寄せたヴォーカルは淡々としていて無機的。それがかえって壮大さ・・・空間的、歴史的な拡がり、宇宙的な魅力を生み出していて、歌手である遠藤ゆりかは楽曲の核(コア)として機能しているんだ・・・という理解。

 ただ、それはCD音源を聴いて感じたこと。ファイナルライブに参加できなかった僕が物凄く気になっているのは、当時まだ希薄だった歌手としての自我が目覚め、大きく成長した2018年の遠藤ゆりかが、この曲をライブでどう歌ったのか、ということです。それも、1曲目とWアンコールで2回も歌った。この2回だけでも異なる印象を持てるはずです。どういうことかと言うと、この曲は、無機的に歌うこともできれば、思いきり力強く歌い貫くこともできる楽曲でもある。真剣な表情で歌うのか、笑顔で歌うのかだけでも全然違ってくる。それを想像しただけで、たまらないんですよね。モノクロームなのか、オーバードライブなのか・・・流石に考えすぎだとは思いますが、HISASHIがそんな可能性の拡がりさえも見越した上でこの曲を作っていたのだとしたら、痺れますよね。

 2番のAメロが無いのは、1番の軽快さがより鮮明になるし、その軽快さは後半では不要だし、意図を感じる見事な手法。メロディーは文句なしに格好良く、歌詞も全体的に素晴らしい・・・まさに声に出して読みたい歌詞。ところどころ字足らずになっている部分もあって、曲と詞の両輪が100%噛み合っているわけでは無いけれど、でも「こまけぇ事はいいだろ!」っていう勢いで聴かせる曲。

ところで・・・MusicVideoでアップになった時の目が怖い(爆)

7. ふたりのクロノスタシス

作詞:宮川弾
作曲:山口優
編曲:宮川弾

 2014年8月6日に発売された2ndシングル。アニメ『まじもじるるも』もEDであり、遠藤ゆりか最後のアニメタイアップ曲。かわいい。ひたすらかわいい。格好いい曲が2つ続いた後なだけに、余計にそう感じます。清純派・遠藤ゆりかも悪くないな・・・なんて、そう思ってしまうのどかな楽曲。夏の清涼感を感じます。

 アルバムの曲順を決める上で、この曲の位置は悩んだんだろうなぁ・・・最初の方に置いてしまうと前半と後半でテンションがハッキリと別れて過ぎてしまうし、後の方に置くとせっかくの盛り上がりが削がれてしまう。結果、選んだのは「モノクロームオーバードライブ」を中盤の山に据え、一旦この曲で最後の小休止をし、最後の山に向かっていく・・・という使い方。「はじまりのうた」もゆったりとした楽曲ですが、あの曲はだいぶエモいですからね。

8. 黄昏ジュヴナイル

作詞:今井秋芳
作曲:芹沢和則
編曲:芹沢和則

 遠藤ゆりかが大団円に向けて選んだクライマックス。第一の矢は、自身が初めてレコーディングに臨んだという幻のデビュー曲。シングル化されなかった楽曲その3。こちらは女性向けではなく、ゲーム『魔都紅色幽撃隊』の主題歌。MusicVideoは2014年4月10日に配信開始。世に出た時系列では1stシングルと2ndシングルの中間にあたります。

 この曲の大きな特徴は、アルバムの全曲の中でも最も異質な歌声。まだ歌手としての個性なんてまっさらな状態で、頑張って歌ったんだろうなぁ・・・などと思っていたのですが、調べてみると、当時のインタビュー記事が残っていて、実はこっちの方が元々の声色をメインで使っていたんだとか。言われてみると、アニソングランプリで色濃く出ていた水樹奈々の影響が、ところどころ出ている気もします。この曲もライブでどのように歌ったのかが気になりますね。

電撃 - 『魔都紅色幽撃隊』に出演している声優の遠藤ゆりかさんにインタビュー! メインキャラに加えてゴースト役にも挑戦!?

 夕暮れの似合う楽曲。「戸惑い迷いながら 人は青春を生きる」という歌詞は、彼女自身、曲順を考えながら思うところがあったんじゃないかな。「Emotional Daybreak」が告白、あるいはメッセージだとするなら、この「黄昏ジュヴナイル」は文学。内面も景色も等しく描くし、そこにメッセージ性は無い。最後は前向きに・・・なんてことにはならない。けれど、だからこそ心打たれる時もある。

9. Melody and Flower

作詞:俊龍
作曲:俊龍
編曲:Yu-pan.

 クライマックス第二の矢。2017年4月26日に発売された3rdシングルで、ゲーム『追放選挙』のOP。売れっ子作曲家・俊龍による作詞作曲。なるほどアルバムの中でもキャッチーさではブッチギリ。僕も愛してやまない、遠藤ゆりかが残した楽曲の中でも一際強く輝く名曲。

 俊龍楽曲のよくある特徴でもあるのですが、テンポのいい楽曲に歌詞を詰め込み、怒涛のごとく放出する・・・そういう曲。今回は作詞も担当しているから、らしさが存分に発揮されていますね。曲に詞に、実に活き活きしている。更に素晴らしいのは、曲の個性に遠藤ゆりかのヴォーカルが負けることなく、むしろより魅力を増していることにあります。強烈な個性がぶつかり合い、拮抗した結果というのは、いつだって熱い。内容は儚さ、美しさ、狂気をしっかり表現しているのに、その勢いに圧倒されてしまう。同じクールで熱い曲でも、「モノクロームオーバードライブ」とは全く違う歌唱。鍛え上げた歌唱力に裏打ちされた自信があるから、これほどまでに強烈な自己主張ができる。

 当時のツイートを探してみると、なるほど、やはり陰で頑張っていたんだ・・・音楽活動もアニメの仕事もほとんど無かった期間を空白と呼ぶことは、残念ながらできてしまいます。しかし、裏では決してそうでは無かった。大変な努力があったことは聴けばわかる。肉体的な不安か、それとも他の何かかは解らないが、何かから解放され、鬱憤を晴らすような躍動。c/w曲では作詞にも挑戦し、発売2ヶ月後には、デビューから3年でようやくファーストライブが実現。声優業及びそれに付随する活動も活発になっていきました。・・・そこで心身に無理が来てしまったのかもしれませんね。

参考:待望の遠藤ゆりか1stワンマンライブが開催!『はぴゆり☆1st LIVE』レポート - 声優ニュース|こえぽた

 ちなみに、アルバムのブックレットを見ると、この曲だけ歌詞の文字色に黒と白の2色が使われています。この曲のシングルジャケットはモノクロの背景に赤い衣装の遠藤ゆりかが写っているものですが・・・関係あるのかな?でも、この曲だけだし、意図はあるんだろうと思いますけど、どうなんでしょう。

 余談ですが、11年前に俊龍が作曲家デビューした茅原実里のアルバムのレビューを書いています。酷評してるなぁ・・・現在の俊龍は有無を言わせぬ実力で、出す曲にハズレ無しといった感じですが、最初からそうだったわけではないんですよね。

レイアウトが崩れてますが、本文は読めます。
mezzo forte[茅原実里]のレビューと歌詞、カラオケ配信状況

10. はじまりのうた

作詞:烏屋茶房
作曲:烏屋茶房
編曲:烏屋茶房
サウンドプロデュース:ムラタユーサク(TOKYO LOGIC Ltd.)

 きゃにめ.jp限定シングルとして2015年11月25日にリリース。2ndシングルから1年ちょっとの空白。時系列順に楽曲を並べた時、はじめて歌唱に遠藤ゆりからしさが顔を出した、アーティストとしての自我が芽生えた楽曲だと思っています。楽曲にあわせてスタイルを変えてきたこれまでと違い、遠藤ゆりかのために作られた曲を、遠藤ゆりかが素直に歌った・・・そんな印象です。その歌唱は、優しいけれど力強い。この素晴らしいノンタイアップ曲を歌えたことは、大きな財産になったんじゃないでしょうか。

 この曲を最後の一歩手前に持ってきたのは必然でしょう。迷子を照らし、夜明けへ進むための歌。背中を押す、はじまりの歌。さぁ、夜が明ける・・・

11. Emotional Daybreak

作詞:遠藤ゆりか
作曲:ゆよゆっぺ
編曲:ゆよゆっぺ

 表題曲。この曲をどういう気持ちで作詞したのか・・・それは冒頭で紹介したインタビューで全て語られているので、そちらを読んでいただきたい。簡潔にまとめると、ファンに捧げた曲であり、引退を控えた当時の遠藤ゆりかの素直な感情を詰め込んだ曲と言えます。極めてメッセージ性の強い楽曲。

 ファンでない人が聴けば、この曲の歌詞を見て、漠然とした声優業界の闇を感じるでしょう。おそらくは・・・そこばかりが気になって、全体像を掴むことができないと思います。ただの愚痴を綴った、独りよがりな歌だと理解してしまうかもしれない。けれど、この曲を聴けば聴くほど浮かび上がってくるキーワードはファンとの「絆」なのです。

本当に今の私のありのままの気持ちや、みなさんに対する思いとか、今まで歩んできたこととか、いろいろなものを振り返って、思い返して、考えて......。引退のことも、自分で決めたこととはいえ、やっぱり人間なので複雑な思いもあって(苦笑)。そういうことも全部、音楽にしてしまおうと思って作ったのが「Emotional Daybreak」です。

 歌詞は明確にこうだ、と説明するものではありませんが、1番はひたすら苦悩。2番も苦悩。あまりにも生々しい感情の吐露。そして・・・2番のBメロからサビまでの間奏。「Wow oh oh~」が繰り返される、歌詞の無いsing alongタイム。明確な意図の存在する「間」。それを経ての大サビこそが彼女のラスト・メッセージ。歌詞だけを見れば、前向きになるのが唐突かもしれません。強引にハッピーエンドに持っていったように見えるかもしれない。けれど、文字を見るだけでは解らないストーリーが、曲を聴くことで浮かび上がってきます。sing alongタイムは「空白」ではない、皆で歌う・・・遠藤ゆりかとファンの最後の共同作業。この曲の中で最も重要なパートであるとさえ言えます。1人では終われない。このsing alongがあって初めて、大サビが成立するのです。

 それから、僕はこの曲を聴いて、遠藤ゆりかからファンへのメッセージであると共に、彼女を失うファンの気持ちそのものではないか?とも感じました。2番Bメロまでは引退発表からファイナルライブまでの半年間。間奏がライブそのもの。大サビは・・・ライブ、或いはtwitterでの最後のメッセージ「元気でいるのよ!」へのアンサー。

 歌詞の中で一際重いのは「忘れてもいい」の一言。遠藤ゆりか視点では、この言葉は優しさです。ファンとの思い出はファイナルライブで確かに刻んだ。その事実は永遠に消えない。それで充分。だから、皆は引きずらないでそれぞれの人生を歩んで欲しい・・・そういう気持ちだと思います。よりハッキリと書くならば「やがて私への気持ちが薄れていく自分を、私以外の誰かを好きになる自分を、許してあげて欲しい」でしょうか。ファンの人達・・・ゆりか組の多くは、最初は「忘れないよ!」と答えるでしょうけど、時が経つにつれて徐々にこの歌詞を受け入れていくことになるんでしょう。悔しいかもしれないけれど・・・それに苦悩する日が来た時は、もう一度この曲を聴くべきです。そうして背中を押してもらうことが、最後の夜明けになる。

まとめ

 最後の曲「Emotional Daybreak」は、聴けば聴くほど新しい発見があります。色んな解釈があると思うし、そこに正解は無いと思います。ただ・・・後世にこの曲の存在を知った人は安直な理解をしてしまうかもしれないな、とも思ったので、遠藤ゆりかが引退して間もない時期にこの曲を聴き込んで、レビューができて良かったと思います。そこには負の感情だけじゃない、暖かい思いもあるんだよ。だから最後は前向きに締めくくることができているんだよ・・・ということを納得してもらえれば、と思っています。

 さて、このCDはアーティスト・遠藤ゆりかの成長の記録でもあります。これまで書いてきたように、最初はプロデュースの影響を強く受けた歌唱が目立っていたけれど、「はじまりのうた」あたりから自分の歌い方を身に着けていったと思っていて、「MaF」の頃にはパワフルさと繊細さを兼ね備えていたし、「Emotional Daybreak」では更に解像度の高い歌唱を披露しています。

 以下の画像は収録曲のリリース年表です。この年表を見て、正直なところ「空白が多いなぁ・・・」と感じる人は少なくないと思います。実際、多いんです。ただ、声を大にして言いたいのは、これほどのブランクがあったにも関わらず、遠藤ゆりかは腐らずに研鑽を続けていた、ということ。そうでなければ「Emotional Daybreak」はああいう風には歌えないし、そもそもそこで腐るような人間ならベストアルバムに新曲を入れようなんて言わないし、ファイナルライブも開催しなかったでしょう。どこまでも真摯な人だったんだと思います。その真摯さがもたらした成長の物語を、空白が繋いだ楽曲たちから想像して頂きたい。

(クリックで原寸サイズを開きます)
endo_yurika_release_history.png

どうでもいい余談

 アニソンレビューサイトを標榜しておきながら、レビュー記事を書いたのが実に6年ぶり・・・最後に書いた記事が2012年でした。遠藤ゆりかがデビューする前じゃねぇか!(爆)ずっと「いずれ書こう・・・」と思いながら、これほどの時間が流れてしまった。そんな僕が重い腰を上げたのは、遠藤ゆりかという素晴らしいアーティストの作品への評価を記録として残しておかなければならない、という義務感からです。そんな義務感を覚えるのと同時に、僕がこの限られた人生の中でやりたいことは何か?と考えると、やはり僕は作品を残したい、音楽を聴いて湧いた感情を文章化したいと思いました。それは今作だけに限らず、ライフワークにしたいのだ、と・・・。このブログを始めた頃の野望を思い出させてくれた、このCDには感謝しています。ありがとう・・・ゆりしぃ!

 そういう意味で、遠藤ゆりかにとっての夜明けである今作は、消費するだけのオタクに成り下がっていたアニメソング・リスナー 大鋼 断にとっての夜明けでもあったのかもしれません。いや、そう断言できるように、今後は他のアーティストの楽曲も、沢山レビュー書きますよ!

   
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