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アニメ『IDOLY PRIDE』感想

2021年05月09日 17:17 更新                  
カテゴリ: [IDOLY PRIDE][アニメレビュー]

目次

  1. 前置き
  2. ストーリー構成とサプライズ 
    1. 麻奈
    2. 早坂芽衣という起爆剤
    3. ユニット分割
    4. 最終的な予定調和
  3. 各アイドルユニットについて
    1. ライブシーンの総合的な出来
    2. TRINITYAiLE
    3. LizNoir
    4. サニーピース
    5. 月のテンペスト
  4. 判定と観客と朝倉
    1. 腑に落ちない判定(成長描写不足とライブシーンの決定打不足)
    2. 従順すぎる人間たち
    3. 朝倉だけは人間だった
  5. まとめ
  6. ゲーム版への期待

判定と観客と朝倉

腑に落ちない判定(成長描写不足とライブシーンの決定打不足)

一言で表すなら、説得力不足。

 上でもポツポツぼやきましたが、やっぱりあの準決勝の判定が納得できないんですよ。サニピと月ストの決勝がやりたいってのは理解できます。ただ、それをやるために納得のいく過程を描いて欲しかったです。麻奈の歌声を卒業し、さくらが自分の歌声で勝負する決意をしたサニピ。麻奈の妹ではなく、グループの一員としてアイドルをやる決意をした琴乃率いる月スト。どちらも、たかがセンター一人の精神的成長だけなんですよ。それから、楽曲。あれほどキャッチーで素晴らしいデビュー曲を出してしまったがために、準決勝の曲は正直つまらなかったです。特にサニピ。

 パフォーマンスに直結する成長を描けないのなら、トリエルとリズノワに隙を作る手もあったはずです。でもそうしなかった。全力出させちゃいましたよね。(ちなみに大鋼の予想としては、リズノワのマネージャー・・・姫野霧子が勝つために新人の愛とこころを強引にデビューさせて、失敗させるのだと思っていました。3話での琴乃の「どうしてグループなんですか?」への牧野の回答がその伏線だったのだと・・・。これなら莉央・葵の格を保ったまま月ストを勝たせることができますからね。でも、無かったな(爆))

筋書きに従順すぎる人間たち

 となるともう、勝負を決定づける明確な差を出せない。であるならば、VENUSプログラムのブラックボックスぶりに疑問を抱く人間が作中にいてもいいはずなんです。準決勝を見ていて、この世界の人間たちはどうしてこうもAIの決定に対して従順なのだろう・・・と思いました。

 そう、ライブバトルの勝敗を決めるのはVENUSプログラムなんです。だから、観客は本当に観客以外の何者でもない。サニピ、月スト、トリエル、リズノワ・・・どのユニットにも等しく声援を贈る彼らは、特定のアイドルのファンですらないかもしれない。

 このテのアニメで嫌いなことがあります。「感情のないファン」が描写されることです。より表現を膨らませるならば「予定調和をやる上での障害が無い状態」が嫌なのです。あれだけリズノワのライブ後に歓声が上がっていたのに、誰一人判定にケチをつけていない。リズノワ当人たちですらあっさりと負けを認めている。それは辱めです。判官贔屓の視聴者にとっては「ちょっと待てよ」となりますよ。

朝倉だけは人間だった

 そんな中で、作中ただ一人だけ「この人はちょっと違うな」と感じたキャラクターがいます。朝倉恭一です。冷徹そうな雰囲気の裏で、この人ほど「アイドル大好き」な人はいなかったでしょう。三枝は飄々としててあまり感情を見せませんでしたが、朝倉はアイドルかくあるべきの拘りを節々で見せていました。何より、最終回で麻奈について「今のLizNoir、TRINITYAiLEなら勝負はわからない。まして来年なら」と言ってくれた。あの言葉だけが大鋼みたいなリズノワ・トリエルの負けに納得していない視聴者への慰めだったのです。

 もし朝倉がいなかったら・・・サニピも月ストも嫌いになっていたかもしれない。アニメ自体をプロジェクトの黒歴史と呼んだかもしれないし、あるいはアニメに限らず『IDOLY PRIDE』そのものに失望したかもしれない。やっぱり、勝負を描いたら結果が伴う。結果に納得させるために説得力ある過程を描かないといけない。説得力ある過程を描けなくても、作中の誰かが異議を唱えてくれたなら、そこに共感が生まれる。朝倉は異議とまではいかずとも、未来への期待を持たせてくれた。それはとても大切なことです。

まとめ

 アニメ放送開始前に期待していたものを見ることができたでしょうか。この2019年末に公開された第1弾PVが押し出している過酷さや生々しい願望の数々をアニメで表現したかと言えば、残念ながら全くできていなかった・・・というか、やろうとしていなかったですよね。それは『IDOLY PRIDE』が持つ様々なテーマの中からいくつかピックアップし、それら以外はバッサリ捨ててしまわないと、とても1クールでは収まりきらなかったからでしょう。

 その結果として、「牧野と麻奈の物語」としては良いものになったと思います。1話での二重のサプライズは見事でした。サプライズという点では、ユニット分割も面白かったです。「琴乃とさくらの成長物語」としてもまぁ、描写不足は感じるものの何とか形にはしたのかなと。「牧野と麻奈」「琴乃とさくら」、その2つの軸を繋ぎ合わせたのが「song for you」。最終回でエキシビジョン的に琴乃にソロで歌わせたのは素晴らしかったし、それをバックに牧野を教室に向かわせたのも、キスシーンで唐突にライブ再開したのもグッジョブという他ありません。

 すこしふしぎなアイドルアニメとしては唯一無二ですよね。幽霊・麻奈がいたからこその感動はあったのだし、これまで誰もやらなかったことをやったのは間違いないです。「心臓移植」「成仏」というキーワードから『AngelBeats!』を連想もしますが、ストーリーのつくりは全然違いますし。

 再三になりますが、残念だったのは描写不足による説得力の無さ、そして、もうちょっと予定調和に対して抗って欲しかったな、ということです。デビューライブは素晴らしかったので、その後の快進撃には何の文句も無いのです。ただトリエル・リズノワを超えるレベルにまで達したかというには、やはり説得力が足りなかったです。

 ネガティブな物言いが増えてしまいましたが、論じるに値する、ムキになってしまう作品だったのは間違いありません。キャラクターも魅力的でしたよ。神崎莉央が良キャラクターだということはアニメ放送前からわかっていましたが、早坂芽衣があそこまで爆発力を持ったキャラクターだったのは驚きました。麻奈・さくらの圧倒的アイドル力も、琴乃の美少女っぷりも渚のクレイジーサイコレズっぷりも、葵の意外ないい人っぷりも優の「好きですー」も、しっかり楽しませてもらいました。

次ページは、ゲーム版への期待について。

   

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